――光――





漆黒の闇の中
それに同化するように、しかし浮かび上がるように彼はいた
闇と同じ漆黒の髪と瞳に人ではない美貌
人外の存在
そう彼は魔性――その中でも妖貴と呼ばれる存在
しかし彼の称号はそれだけでない
浮城という魔性に対する力を持つものたちを守る者――守り手でもあった
しかし彼の場合、後者は自らが望んで得た者ではない
多くの守り手は魅縛師という魔性を魅了してしまう能力を持つ者達によって浮城に組するものである
が、彼の場合は柘榴の妖主と同じ星の下に生まれ、そこからさらに数奇な運命の巡り合わせによりその立場を強いられているのである

最初はそれが嫌で嫌で仕方なかった
でも次第にその立場に甘んじつつあるのを彼は自覚していた
理由は一人の娘
砂色の髪を持つ彼が守るように命じられた相手
その者によって彼の感情は動きつつあった

―――――これも運命か

くつりと自嘲の笑みを浮かべる
まっすぐと前を見据えながら、しかしその眼映る破砂色の髪の娘

それまで彼は柘榴の妖主と似ているというだけで模造品、偽物扱いされ続けていた
それは楔となって己にもそれが深く食い込み、黒く腐敗しながら身に同化しつつあった
それを娘はゆっくりと引きぬきながら、傷を癒していく
己自身が何度もやり遂げようとしたことを
娘がいともたやすく成し遂げていく

―――――光だな

闇に生まれ闇に捕らわれ続けた己に差し込んだ一条の光
目に娘を映したまま、眩しそうに・・・やわらかな微笑を浮かべる

その時だった
不意に彼の側に巨大な力の気配が現れたのは
闇が深紅に変わり、具現する
わけあって力を押さえていても肌に突き刺さるような威圧感を放つ者
彼と似た、でも圧倒的に格上の絶美の青年
柘榴の妖主

「何しにきた」
以前であればその気配を感じただけでも、震えるように畏怖を覚えていた
しかし今は―――――
それに気付いたのか相手の青年は笑みを零した
「思いのほか早かったな」
―――――もう少しかかるかと思っていたんだが
そう言って優美な手を宙に滑らす
とたん彼は左手首の拘束感が消えたことに気づいた
目をやると、それまで巻き付いていた金の鈴を連ねた手纏きがなくなっていた
視線をもどすと青年の手の中にそれが握られている
「どういうつもりだ?」
「もう必要ないだろうと思ったからさ」
全てを見透かしたような声に彼は思わず顔を顰める
「・・・そんなのわからないだろう」
「わかるさ。お前はもうサティンから離れない・・・いや、離れられない」
青年はからかいの笑みを浮かべて続ける
「その証が今のお前だろうよ。前までは俺の前でビクついてた奴が今は普通に接している。それが証だよ。お前は強くなったんだよ。お前と呼ぶ者に心を許したおかげで、な・・・」
―――――だから離れられないんだよ。お前は求めていた場所を手に入れたのだから
存外にずばりと言い当てられ、彼は舌打ちをしさらに顔を顰めた
それを青年はくつくつと笑う
「・・・今日はこれだけだ。次ぎくる時には進んだ話でも聞かせろよ」
「2度と来るな」
「そう言うな」
くつりと笑いを残して青年が消える
彼はしばしその後を見つめて、視線を移した
再び映る、砂色の髪の娘
彼は声ならぬ声で娘に言葉を紡ぐ





サティン

俺はもうお前から離れられない

俺の身に埋まった過去の楔を抜いたお前から

そして闇しかしらない俺に光を与えたお前から

心地いいと初めて思えた場所そこがお前の側

他にはない

そう感じるからこそ

俺はお前から離れたくない



これは心からの希望
初めて安らぎを手に入れた者の望み



―――お前は聞き入れてくれるか?俺の願いを―――


闇が問い掛ける一つの願い


それはもうすぐ光に届く



fin




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うわーvv
鎖×サだー!!
風猫さんから頂いた作品です!!
もう最高(>_<)
ずっと、こういうの見たかったんですよねー。
闇主さんと鎖縛くんのやりとり!!
「離れられない」・・・ですって!!ちょっと、奥さん聞きました!?<ぶっ飛んでます。
風猫さんすばらしい作品、本当に有り難うございました!!
これからも、何か書いたら教えて下さいねvv
それではっ。                           By  iru

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