山深い渓谷に咲く一本の桜
月明かりのみが照らすそれは薄紅でありながら青白く浮かび上がり絵もし難し美しさを纏っている
その下に一組の男女がいた
「おい、そろそろいいだろ」
男が不機嫌そうな声を女に投げる
「もうちょっと。あんたもこっち来なさいよ。とってもきれいよ」
女はその不機嫌さに気づかぬふりをして、男に笑みを返す
男はさらに不機嫌に顔を師換え近くの木に寄り掛かった

―――どこまで身勝手なんだか

そう思いながらも男は女の望みを受け入れる
以前は男が女に従うしかない立場であった故に
今は男の女に対する気持ちが変わった故に
自分自身でも見失っていた己を見つけ、認めた相手
それは男にとって何よりも驚き、癒された
それと同時に女は守るべきかけがえのない者となった
もっとも安らぐ居場所として
愛おしいものとして

静寂が流れる中、やわらかな風が吹く
それに乗ってはらりはらり、花びらが舞う
幻想的という言葉がふさわしい風景。しかし彼の目は娘にしか向いていなかった
舞う桜花の中の彼女に、彼は何よりも引かれていた


不意に強い風が襲う
「きゃ・・・」
女が小さな悲鳴を上げて桜花に包まれる
薄紅に飲み込まれるように、女が男の視界から―――

―――消えるっ・・・!

そう思った瞬間、男に今まで感じたことのない恐怖が襲う
今までの数奇で残酷な運命よりも強い恐怖
無意識のうちに空をかけた

手を伸ばして・・・・・・・触れて・・・・・・・・抱きしめる・・・・・

―――いた・・・消えてない・・・


安堵し、しっかりとその温もりを確かめる


―――よかった・・・

――――――確かにいる・・・ここに・・・この腕の中に

――――――――――――自分によって何よりも大事な居場所・・・存在


「ちょ・・・話して・・・鎖縛!」
突然の事から我に返った女が声を上げる
もがく女を逃がさないように男はさらに腕に力を込めた
「苦しっ・・・どうしたのよ?鎖縛?」
「・・・消えるかと、思った・・・・・」
男のわずかに震えた声に、女は驚き抵抗を止めた
そして男の背中にその手を回し、やさしくあやすように叩いた
「大丈夫。私はここにいるわ。だから安心して・・・・私はあなたの側にいるから」
女の声に、男の力が弱まる

わずがに離れ視線が絡む
男の切なさを宿す瞳に女は微笑んで、腕を伸ばす
男の頬を包むように両手で触れて
「私があなたの側を離れるときは死ぬときよ。それまではずっとそばにいてこき使ってやるんだから、消えるなんて勝手に決め付けないでちょうだい・・・・・・約束よ。私はずっといるから。無駄に自分を追い込まないで」
静かで強い、いつもの口調
そんな女に男は小さく苦笑して頷いた。そして頬に触れ返す
そこから伝わる暖かな温もり
それを静かに引き寄せて―――



薄紅舞い踊る桜の下

新たな契が交わして

2つの影が寄り添う



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きゃー!!甘々vv風猫さんから頂きました!!2作品目です!!「光」の続きになるそうです!!
いやー、鎖サの感じでてるわーvv
あれまあ、鎖縛くんったら、うやむやの内に・・・・vv
何か妄想に突っ込みそうな雰囲気にさせられちゃいますねv←危険
なにはともあれ、すばらしい作品、有り難うございました!!
これからも期待してますねvv
                              iru


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