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苛立つ。
お前がすべての根源。
馬鹿が付くほどのお人好しで、最後に傷つくのは自分だとわかっているくせに他人に手をさしのべる。
そのくせ傷ついて、血を流して、踏みつけられても、その眼に揺るぎない炎を宿して「それでも私は護りたいんだ」などと抜かす。
なら、口にしてみろよ。
その細い腕で護れるモノを。
護り切れたモノを。
そう言えば、唇をきつく噛み締めて黙るくせに、その眼は炎を絶やさずに見据えてくる。
苛立つんだよ、その眼が。
屈服を知らず、意志を決して曲げないその眼が。
今まで誰一人として、俺に向け得なかったそれが。
初め目にしたとき、魔性の血を封じられたお前は無力な子供だった。
それなのに、魂の輝きは馬鹿みたいに派手で、そこら辺の雑魚どもをあっという間に集めちまうほど。
そんな悲惨な運命まっしぐらのお前に俺がわざわざ手を貸してやると言ってやったってのに。
いざその時になってみれば、この俺のことなんざすっかり忘れて暴走しやがって。
そのまま世界すら滅ぼそうとしたとんでもない奴。
面白いと、俺が思ったところで無理はないだろう?
気まぐれな興味がそそられて、柄にもない細かい工作を積み重ねて、演技までして近づいて。
・・・面白かったよ、お前が俺には理解不能な感情で慟哭し、喘ぐ姿を見るのは。
唯一の理解者面して、そんなお前を内心反吐が出るような優しい言葉で慰めてやるのは。
そんな俺の姿に驚愕し、動揺し、慌てふためく周りの反応も。
面白かったんだ、何もかも。
九具楽の奴を、この手に掛けるときまでは。
別に後悔なんぞしたわけじゃない。
何を血迷ったか、俺の遊びを妨げるような馬鹿な行動に出て勝手に自滅したのは奴だ。
ただ、無意識のうちに奴よりもお前を選んでいたことに気づいて、訳が分からなくなった。
奴のことはそれなりに気に入っていた。
俺の右腕という肩書きを許してやる程度に。
たかだか、半妖の小娘と天秤に掛ければどちらが重いかなど、一般的な思考では結果は分かり切っていたはずだった。
なのに俺が取っていたのは出来もしないのにすべてを救おうとする不器用な細い手だった。
それで、訳が分からなくなった。
俺が奴を手に掛けたことに対し、「私のせいだ」と悲痛に歪むお前の顔を見るたび、
「本当は恨んでいるんだろう?」と、その苦痛に揺らぐ目が囁くたび、
無性に苛ついた。
お前が俺を不幸にしていると、そう思っているお前の感情が、異常なほど煩わしかった。
ここまで俺の心を騒がせるお前の存在が不快に他ならなくなった。
あのままでは衝動的にお前の首を絞め殺しそうだった。
いつもなら、そうしていただろう。
お前を殺して、それで終わりにするのが普通だった。
けれど、それは負けに思えた。
だから、お前を放りだして。
護り手の役目なんぞ放棄して。
誰かがさっさとお前を消してくれれば、と。
あの世話好き坊主がいなけりゃ、お前が川の底に沈んでいった時にその俺の望みは成就していただろう。
だというのにご苦労にも助かったお前はまた他人のことに首を突っ込んで、
しかも妖主の側近の妖貴とまで対峙して、また虫の息だ。
そうまでなって、やっと呼びやがった。
この俺の真名を。
お前が勝手に変えてくれた名を。
行ってやったさ、お前の呼びかけには答えるのがルールだったからな。
そこでお前は、あろうことか死にそうな状態で「話がある」などと言い始めた。
馬鹿にもほどがある。
自分がどういう状態かわかってんのか、と。
罵倒して、その怪我を治癒してやろうと。
・・・したら、勝手に逆ギレしやがった。
趣旨も何もバラバラで、最後には「お前なんか大嫌いだ!」と子供みたいな捨てぜりふを吐く。
もう、どうでもよくなった。
ああ、もう俺の負けでいい、と。
諦めてしまえば、いっそ気は思った以上に軽くなった。
捕らわれているのだ、自分はこのどうしようもなく不器用な娘に。
焦がれて、愛などと言う言葉では補えないほどに執着し、欲しているのだ、と。
なら手を伸ばせばいいと思った。
外聞も、矜持もなにもかも捨てても。
それが自分のもともとのスタイルであり、悟ってしまえば躊躇うことなどなかった。
今思えば、とんでもない奴を選んじまったもんだ。
綺麗事ばかり口にして、自分でも不可能だと分かっているくせに諦めが悪い。
それが他人のことならなおさら。
もっといくらでも楽に生きられるだろうに。
トチ狂った弟なんぞ切り捨てて、俺に頼めば、
苦痛でしかない過去も何もかも忘れて優しい時を、何者にも壊されることなく過ごせる空間ぐらい与えてやる。
だが、それをお前はよしとしない。
無理に囲めば窒息死しちまう。
ただ狂ったような妄執の渦のど真ん中で、逃げずに自らの運命に立ち向かおうとする。
それでいて、そのせいで周りにかける迷惑に心を痛める。
・・・厄介この上ない。
どこまでも巻き込んで、惹き付けて、ついには世界の柱を一つ壊しやがった。
ここまで人騒がせな娘を見たことがない。
苦しみながら、藻掻きながら、それでも一筋の光を手に入れようと。
・・・金の野郎の遺伝か?
それともそれをトチ狂わせた人間の女の遺伝か?
こんなのを作り出したのは。
ここまで俺を苛立たせ、同時に魅了する本当にとんでもない奴。
おまけに恋愛感情に疎くて、俺への感情を自覚できずにいるときたもんだ。
笑っちまう。
仮にも柘榴の妖主がこんな小娘に振り回されてるなどとは。
それでも、手放せない。
お前の存在自体が俺の存在理由である限り。
だからもういい。
この苛立ちもすべて、お前が原因なら。
甘んじて受けてやるさ。
だが。
その代わり、お前の心も捕らえてやる。
差し伸べられた多くの手に苦しもうとも。
お前の意志で。
お前の望みとして。
選ぶのは常に俺の手。
さあ。
特大級の問題を抱えたお前に引きずり込まれた俺と
他でもない柘榴の妖主たるこの俺を本気にさせたお前と
不運の牙に喰い付かれたのは一体どっちだろうな?
<fin>
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時期は違いますが、紅愁の逆ヴァージョンになるかな。
闇主さんのモノローグ。
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