黒鋼の翼 第一章 ・・・ 第四話(Z)
相変わらず錆びた音を響かせる扉を開いて、涼子は倉庫に足を踏み入れる。
中を見渡せば、床が一部黒く変色していた。操られていた子供達の骸があった場所だ。千尋が燃やした際に焦げたのだろう。数秒の後、涼子はすぐにそこから視線を外して、暗闇に満たされた奥を見遣った。子供達が侵入経路として使った場所は封鎖されている。とはいっても、そこはかなり狭く、普通の大人が通れるような場所ではないから、そうそう侵入できる場所でもないが。
涼子は封鎖された場所とは反対側へと足を向けた。壁に沿って、奥へ奥へと進んでいく。だが、途中で赤いラインが走っている場所まで来て、涼子は眉を顰めると、来た道を再度注意深く戻る。この間にあるはずなのだ。非常時の避難用に作られた通路への入り口が。ジェルバの部屋に入り浸っていた頃に偶然見つけた設計図に、それは示されていた。すぐにジェルバが部屋に戻ってきてしまったので、細かいところまで記憶する時間はなかったが、大体の場所はここであっているはず。しかし、一見してそうとわかるものは見あたらない。まあ、隠し通路なのだから、そう簡単に見つかっても困るのだろうが。
これはシコウを連れてこないと無理か、と涼子が倉庫の中央まで戻ってきて嘆息する。
そして、諦めて一旦戻ろうとした、その時だった。
「………」
スッと目を細めた涼子は倉庫内の隅々に注意を配る。気のせい、とも思える微かな気配だった。だが、どこかで確信もしていた。
「誰?」
凛とした呼びかけが倉庫内に響く。保たれる静寂。鼠一匹の気配もない。涼子の腕時計の秒針の音まで聞こえそうだ。数秒の沈黙の世界に、だが、涼子は気を緩めなかった。再度口を開く。
「誰か、いるんでしょう?」
カチッと小さな音。瞬間、涼子はセントルの剣を引き抜き、自分の背後に振り切った。
空間を揺らす、鋭い金属音。刃と刃の間で摩擦された光の向こうに、涼子は一つの影を見た。その肌の白さに、目を見開く。だが、それは錯覚だった。白いと感じたものは肌ではなく、それを覆った包帯の色。
「………っ」
お互いの口から、同時に舌打ちが落ちる。上から飛びかかってきた相手の足が地に着いた刹那、涼子は踏み込んだ足を後ろに蹴って、距離を取る。ハッと詰めていた息を小さくつき、落ち着いた視界の中、相手の姿を今一度冷静に見つめた。
全身を取り巻く黒衣と白い包帯。漆黒の髪。長身の男。そして、包帯の隙間からこちらを見据える両の目。自分と同じ漆黒の光。
涼子の口端が引き上がる。余裕とは反対の意味を以て。
「どちら様?」
セントルの剣を構えながら問う。空気から伝わってくる。只者じゃない。今まで対峙してきたどの能力者よりも、強いかも知れない、と思った。
「……黒髪黒目の、女騎士」
低い声音が包帯の下から落とされる。しばしの思考の果てに、男は呟いた。
「黒鋼の……涼子=D=トランベルか」
男の黒曜の瞳が細められる。その目元は微かに歪んでいるように見えた。
「ついてないな」
そう小さく漏らして、男がゆっくりと剣を構え直す。向けられた白銀の刃に、光が走る。
「誰かって、聞いてるんだけど?」
涼子が問い直すと、男は無言だけを返した。無言と、確かな殺気。相手の右足が、前に踏み込まれる。それを認識して、涼子は剣を握る手に力を込め、自分も右足を踏み込んだ。
刹那、二つの影が肉薄して、再び交わる白刃。衝撃が手元まで響いて腕に痺れが走る。間近で包帯の下から覗く両の目に、一瞬引き込まれそうになった。自覚するなり、その事実に内心悪態を吐いて、涼子は力任せに相手の剣ごと振り切る。相手は両手から右手へと剣を持ちかえて、その勢いを流す。そして続けざまに涼子の右足から繰り出された蹴りを、読んでいたとばかりに左手でガードする。一瞬の、静止。だが、一瞬だ。次の瞬間には両者が動きを見せていた。男の右手の剣が、先程の流れの延長線上で弧を描き、上からの斬撃を繰り出す。涼子は受け止められた右足でそのまま相手の左腕を蹴り、横に飛んでそれを逃れた。床に手をつくと、再び距離を取って涼子は長い息を吐き出す。
無駄がない。
涼子はそう相手を評価する。動き一つ一つが洗練されていて、隙がない。攻撃を交わして、反撃しようにも、相手はあっという間に攻撃から防御へと姿勢を変えているために、剣を繰り出す前に、止められると予想がついてしまう。見たところ、相手は身体的能力者に間違いないが、セントル以外の加工技術でここまでの能力者を作ることが可能なのか、と驚きを禁じ得ない。完全に能力の還元に成功している。セントルの調査ではまだ、どのSLE犯罪管理機関も完璧な技術習得には至っていないはずなのだが。犯罪組織ならなおさら、こういった高度技術は後れているはずだ。一体この男はどうやって還元に成功したのだろうかと、涼子は訝しげな視線を向ける。その間にも相手は淡々と攻撃を仕掛けてきた。涼子は息を詰めると、相手の剣を避けるように思いっきり後ろに退いた。相手が横目で涼子の動きを見つめながら再び踏み込んでくる。涼子もまた距離を取る。逃げ一手の涼子の態度に、相手は眉を顰めた。小さな間の後、細く長い息を吐く出すなり、男は鋭利な光を瞳に宿した。そして、次なる攻撃は今までの倍近い速さで距離を詰めてきた。今度は涼子も逃げなかった。左脇から男の右手が剣を斜め上に軌道を取って振り切ってくる。涼子はそれを前屈みになりながら自らの剣で受け止める。間近で、視線が交差する。涼子は口端を小さく引き上げた。相手がそれに目元を反応させる。その刹那、涼子はグンッと身を屈めると同時に、さっきの相手と同じように、両手から左手に剣を持ち変えて、相手の勢いに任せ受け流す。そして、流された剣を自らの背後で左手から右手に投げ渡すように持ち変えた。男は涼子からの攻撃に対する防御を視野に入れていた体勢を取っていたが、斬撃は予想していなかったらしく、その目元が引きつった。その表情を認め、涼子はその右手の剣を迷うことなく相手に斬りつけた。
白が千切れて、宙に舞う。
左頬の、引き裂かれた包帯の隙間から覗く色に、涼子は目を見張った。相手が舌打ちして、右手で暴かれた場所を隠すように覆った。だが、涼子の瞼はしっかりと焼き付けていた。青紫色の無数の斑点に侵された肌を。
「あんた、それ……」
涼子にも、見覚えがあるものだ。セントルに入る前に、裏の世界で同じ症状をもった人間を度々目にしたことがある。その全てが高い身体的SLE能力をもった者だった。完全ではない加工技術で身体的SLE能力へ変換する際、稀にセントルでそれを受けた場合と同様に無駄なく、全ての能力を還元させることに成功する例がある。だが、その場合、その負担が肌に出る。青紫色の斑点が全身を侵し、定期的に薬を打たなければ壮絶な痛みを引き起こし、死ぬことさえあるその症状。その運命に魅入られた者が、果たして運が良いのか、悪いのか、判断に困るところだが、おそらく悪いのだろう。滅多に手に入れられないその薬を、常時確保できる人間は少ない。涼子の記憶にあるその症状を抱えた者達は、高い能力を持ちながら、皆すでに身動きさえ取れない有様だった。
「………」
男は目元を歪めたまま、涼子を睨み据えた。張りつめた空気が流れる。男は抑えていた左手を外す。同時に、千切れ中途半端に垂れ下がっていた包帯の一部を引き破って投げ捨てた。そしてその手が再び剣を構える。涼子も失念から立ち直って、剣を握る手に力を込め直す。両者が、低姿勢に身構えて、足を踏み出そうとした、その時。
「お兄ちゃん!」
空間に響き渡った呼びかけに、男と涼子、二人ともが動きを止めた。入り口を同時に振り返り、そこにいる人物に目を見開く。
「……マリー」
涼子が呼ぼうとした名を、男が先に口にした。マリーは歓喜の顔をそのままにこちらへと駆け寄ってくる。突然の出来事に、涼子も、そして男も微動だにできずに、少女の姿を見守る。小さな体は数秒とかからずに、男の黒衣に包まれた胴体へと抱きついた。
「お前っ……どうやって……?」
唖然としている男は自分にしがみついている少女の背に腕を回しながら問う。
一部始終を見ていた涼子はこの状況に得心がいって、肩から力を抜いた。
「なんだ、あんた、マリーの兄だったの」
「……?」
男はなおも理解できずに困惑している。自分の妹と、黒鋼の翼の騎士とが何故知り合いなのかがさっぱり繋がらないのだろう。涼子はあからさまにため息を落とす。マリーがやっと男の黒衣から顔を上げて口を開いた。
「涼子が助けてくれたの」
「……なんだって?」
聞こえなかったのではない。耳に入った言葉の意味が理解できなかったのだ。男は奇妙なことを口にした妹をまじまじと見つめる。マリーはその視線に少し居心地悪そうにして、また言葉を発した。
「牢屋から脱走して、捕まりそうになったところを涼子が匿ってくれたの」
「………」
顔を顰めた男がゆっくりと涼子に向く。そこに感謝の色は全く見えない。猜疑心だけが渦巻いている。
「何が目的だ」
案の定、敵意を宿した声が突っかかってきた。涼子は顔を思いっきり歪める。
「…良心から、とは思わないの?」
「お前のことは知っている。涼子=D=トランベル、セントル唯一の女騎士で翼名は黒鋼の翼、性格は傲慢、傍若無人、無償で人助けをするような人間じゃない」
ズケズケと放たれた言葉に、吹き出す声が、入り口の向こうから聞こえた。涼子は引きつった顔でそちらを横目で睨む。だが、開かれたままの扉の影にいるはずの青年への詰問は後回しだ。涼子は怒鳴り散らしそうになる心を落ち着かせるように息を吐き出す。
「……他意はないわよ。何となく、そこの嬢ちゃんを助けてやろうかっていう気分になったのよ。それだけ。私、気まぐれなの、あんたのデータに追加しといて」
右手を挙げてヒラヒラと振りながら言ってやる。相手はまだ不審な目を向けてきたが、何か言い出す前に涼子は上衣のポケットから手帳を取り出して、サラサラとペンで何事かを書き付ける。そしてそのページを引き破ると、適当に丸めて男へと投げやった。顔に向かって飛んできたそれをマリーにしがみつかれて身動き取れない男は手で受け止める。何だという顔をする男に、涼子は顎で「開けろ」と指す。男は不承不承といった様子でそれを開いた。中に書かれた文字列を見て、男の眉が不可解そうに顰められる。そして、涼子へと視線を戻す。
「……ここが、なんだ」
「行ってみなさい。良い医者がいるわ。口は悪いけどね。その手のことについては私が知る限り世界一腕が良いわね」
男が一瞬息を呑んで黙った。無意識にその手が露わになっている己の左頬に触れる。
「何故こんなことを?」
男の訝しげな視線が涼子を射抜く。なるほど、裏社会で生き抜く男だ。涼子からの贈り物を素直に喜んで受け取ることはしない。受け取ったものが毒であるかもしれないことを知っている。相手が仲間でないどころか、敵でさえあるならなおさらだ。当たり前の反応に、涼子は笑んで短く返した。
「面白そうな奴は一回見逃してやることにしてるの」
その解答に、男は心底つまらなそうな顔した。だが、涼子の言葉に嘘がないことを悟るとさらに顔を歪めて、言い切った。
「酔狂な奴だな……後悔するぞ」
後半は脅すような低い声音で言ったが、涼子はニヤリと笑うだけだった。男はあからさまに顔を顰めると、小さく嘆息を落とし、長居は無用とマリーの手を取った。そのまま踵を返した男に連れられてマリーも涼子に背を向ける形になったが、すぐに名残惜しそうに振り返った。涼子はそれに微笑で応える。いつか、また会うこともあるだろう。今はただ、その時の間柄が最悪な場面でないことを祈るだけだ。
男が向かったのは、涼子が先程抜け道を探していた場所だった。男が壁に手を当てた。具体的に何をしたのかは、涼子の立ち位置からは見えなかったが、壁でしかなかった場所にぽっかりと暗闇が覗く。あそこにあったのか、と涼子は遠目に思う。男は余韻もなくその闇の中に身を隠した。マリーだけは、やはり一瞬涼子を振り返ってから闇に姿を消した。その姿がいじらしくてつい頬が緩んでしまう。
「涼子さんってそういう趣味があったんですか」
ぼそり、と背後から呟かれて笑みが固まった。ゆっくりと振り返るとしばらくぶりの青年の顔がある。
「シコウ」
呼べば、閉ざされる抜け道に向けられていた紫炎の視線が涼子に戻ってくる。
「あんた、さっき笑ったでしょう?」
「あんな小さな子に手を出したら犯罪ですからね」
青年は真面目な顔で告げて、涼子の糾弾を聞かなかったことにしている。涼子は相手の態度にもその台詞にも眉を顰めた。
「ふざけないで……っていうか」
涼子はとりあえず文句を飲み込んで相手に向き直る。
「何であんたがマリーを連れてくるのよ?」
いいタイミングではあったが。というか、好都合な展開過ぎた。協力させる予定だった青年が、説明もしてないのに、マリーをここに連れてきてくれるなんてさすがに期待していなかったのに。青年は軽く肩を竦めて答える。
「涼子さんが遅いんで、部屋まで迎えに行ったんです。そしたら彼女が出てきてどうも様子がおかしいので問いつめたら事情を話して下さいまして、まあ、脱獄犯を助けるなんて普通なら考えられない馬鹿な真似も涼子さんならあり得るかと納得したわけです。で、聞くところによると涼子さんが『秘密の入り口』なるものから逃がすと言及されていたということで、そこの下見にでも行ってるんじゃないかと数ある入り口の中を虱潰しに当たっていこうとした一発目で大当たりだったと言う話です」
「………突っ込みたいところがあるんだけど」
「拒否します、流して下さい」
「………」
涼子は眉間に皺を寄せて睨み据えたが、まあ、手柄は手柄なので不敬な言葉への叱咤は勘弁してやることにした。心の中で舌打ちして、入り口へと足を向ける。その背に青年の言葉が投げられた。
「あまり派手な行動は慎んで下さいよ。貴女自身のために」
静かな言葉に、涼子が振り返ると、シコウは無表情でこちらを見ていた。
涼子は何か言おうとして口を開いたが、言うべき言葉を見失って声は出なかった。しばらく沈黙が降りて、涼子は簡単な了承の言葉を口する。
「……わかった」
「ありがとうございます」
シコウが小さく笑って涼子と同じように入り口へと足を進める。立ち止まったままの涼子の脇を抜けて、先へ行ってしまいそうになるその姿に身を焼くような焦燥を感じて、涼子は反射的にその裾を掴まえていた。その感触に気づいて、シコウは涼子を振り返る。
「何ですか?」
「………」
問われて、涼子は言葉に詰まる。涼子が一番わからなかった。自分の中で渦巻く感情が一体何なのか。
「ごめん、何でもない」
言い切って、手を放し、シコウの先を早足で歩いた。数歩遅れて、シコウがついてくる気配がする。だが、涼子は振り返らずにただ前だけを見て歩き続けた。
薄暗い通路の中を、マリーは兄に従って黙々と進んでいた。再会できたら言いたいことは沢山あったのに、いざとなると何も口を突いて出ない。あまりにトントン拍子に物事が上手くいきすぎて、マリーは自分が夢を見ているのではないかとさえ思い始めていた。涼子の片翼と名乗る青年の言うがままに、また帽子を被って外に出た。そして彼の後についていくと、そこには兄がいた。しかも涼子と一緒に。一生分の運を自分はここで使ってしまったのではないかとマリーは思う。そうこう考えていると、舌打ちが聞こえて、兄を見上げる。
「お兄ちゃん?」
「……何でもない、気にするな」
マリーは先程の涼子と兄のやりとりをふと思い出す。おそるおそる口を開く。
「あの、さっきの紙……お兄ちゃんの肌、治る…の?」
兄の肌の事に関しては口にしないこという暗黙の了解ができている。だから、今までもマリーはあまり兄にその手の話はしたことがなかった。兄にとって、きっととてもつらい話だから、傷つけるようなことはしたくなかった。でも、涼子が投げた一つの紙切れが何らかの希望を抱いているかもしれないと知って、マリーは胸がざわめいた。兄は少しだけ眉を顰める。
「……わからない」
期待は常に裏切りを孕んでいる。同じ絶望も、その前に期待を持っていたかいなかったで残酷さは雲泥の差になる。だから男は下手な期待はしたくなかった。だが、万が一ということをどうしても思ってしまう自分がいる。長年苛まれてきたこの呪いから解き放たれるかもしれないと考えると、どうしても胸の奥が焼けるような疼きを覚えてしまう。情けない、と自嘲の笑みが漏れる。セントルの人間の言葉に揺れているなど、滑稽でしかない。
「なんで、涼子はセントルにいるんだろう」
ポツリ、とマリーは漏らす。あんなに優しい人が、どうして、敵の中にいるんだろう、と。男はその呟きにしばらく沈黙し、そして返した。
「無知、だからだ」
「……涼子は馬鹿じゃないよ」
反射的にそうムッとした声でマリーは反駁していた。
兄に従順だった妹の反撃に、男は少し驚いた目をした。
「お前……えらく懐いたな」
「う…だ、だって、助けてくれたもん」
呆れたような声音に、マリーはしどろもどろになりながら返す。敵であるセントルの人間に肩入れするようなことを言って、兄に怒られはしないかと言った後で気づいて、マリーは恐る恐る相手の顔を伺った。だが、兄は怒りも嫌悪もその顔には表していなかった。
「そうだな」
優しい声でそう言って、大きな手でマリーの頭を撫でてくれる。
マリーはその感触に目を見張った。ずっと、欲しかった手だ。セントルに捕まってもう二度と触れることができないのではないかと、切実に思った手だ。こちらからしがみつくばかりだったところを、初めての兄からの接触に、マリーは改めて自分が助かったのだということを実感して泣きそうになった。唇を噛み締めて俯いていると、兄の呟きが落ちてくる。
「無知だが、馬鹿じゃない」
見上げた兄の目は、マリーではなくどこか遠くを見ていた。
そして、そのまま続けて言葉を紡いだ。
「それが彼女の悲劇だ」
多くを知る彼女の兄は、それきり何も言わなかった。また無言で先へと進む。
その後に慌てて続きながら、マリーは兄の言葉が理解できずに首を傾げながらも、後ろの暗闇をそっと振り返った。この道はあの強く美しい人へと繋がっている。もう決して引き返すことはできない道だけれど。
それでも。
いつか涼子にまた会えたらいいなと、マリーは心密かに思った。
果たして、遠くない未来で彼女の願いは叶うことになる。
”その人”にとって、最悪とも言える形、で。
第四話:テラ・ノマ 終
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